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まだ見捨てられていなかった。高校時代、教師までもが賽(さい)を投げたのに。
彼女はあわてて、首をぶんぶんと縦に振った。ボディランゲージなら、ちゃんとできるのだ。
その男の子は彼女の振る舞いに驚きつつも、
「じゃぁさ、名前聞いてもいいっすか? 受験票、実は俺も忘れてきてて今事務所に行ってきたんすよ。知り合いいなくてちょっとテンパっちゃいましたけどね」
受験票、――家に送られてきたのとは形の違うものを掲げて彼は苦笑いを浮かべた。いや、これは照れ隠しに近いか。
(すごい……)彼女は思った。
目の前にいる彼は、自分と同じで知人のいない中、こうやって行動できるのだ。その姿が、彼女の眼にはまぶしく映った。
自分に話しかけてくれたのも、すごい。自分なら何とかしようとは思っても、それは思うだけで実行には移せないし。
彼女が望んでやまない『勇気』、『行動力』を、彼女は彼の内に見出した。
――彼に近づきたい。
その思いから、彼女は頑張って自分の名をなんとか彼に告げる。上手く出来た。ほんの少しだけ……一歩、前進。
02/
少し後のことになる。具体的には三日後。
本日は、授業前のオリエンテーションの日だった。一年間の主な流れとか、模試の大切さ、予習、授業、復習のサイクルの話だとか、そんな話だ。
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