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話自体は当り前のことであったが、みな聴講の姿勢を崩さない。それどころか、教室内はピリピリと緊張の糸が張りつめたような空気に包まれている。
そんな空気の中、ひと際身体をがちがちにしていた女の子がいた。
彼女もまた、自身の性格が災いして、首の回らない状況に追いやられていた。
それは、周囲の期待に応えなければならない、というある種の脅迫観念である。
もともと、勉強自体は嫌いではなく、成績は伸びるばかりだった。が、しかし、それに比例して、親、教師の要求は強くなった。
彼女はもともと孤児であり、養子として今の家に迎えられた。育ててくれたことは、心の底から感謝している。けれども、それゆえに、ここまで育ててもらったのだから、と考えるようになってしまったのだ。
机の下で、ぎゅっ、と手を握りしめる。その姿は、張りつめすぎて、すぐにも切れてしまいそうだった。
(今年は絶対に失敗出来ない……)
その言葉を心に刻み、彼女はライバルとなる人を観察しようと、無駄に白い歯のチューターの目を盗んで教室内をぐるっと見回した。さすがに、『このクラス』にいるだけあり、みな賢そうな顔つきをしている。
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