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朝が来た。
酷くぼんやりとしたまどろみの夜が、徐々に光を伴って明けはじめ、反比例的に私の意識をはっきりとさせていく。
窓から光が射し込む。起きたばかりの目には眩しすぎて、私はそれを細めた。
同時に、小鳥の鳴き声が聞こえてきた。随分と陽気なものであるが、彼らにも彼らなりの事情があって鳴くのだろう。誰だって大変な時は大変なのだ。
「んあ……」
適当な唸り声を上げつつ、私は布団をまくり上げ、身体に鞭を打ってベッドから降りた。
「……飯……無かったっけ……」
稼働率35%といったところの脳味噌を動かし、記憶を辿る。
……結果は望ましいものではなかった。
昨夜は客人を招いていたのだが、その際調子に乗って食糧を乱費してしまった。残っているものと言えば、水と僅かの牛乳と、何時からあるやも知れぬ生肉くらいか。
「……すー、すー……」
ふと、微かな寝息が聞こえてきた。
私は振り返り、私のベッドと線対称の位置にあるもう一つのベッドに目を遣る。
そこには布団にくるまれ、無邪気な寝顔を浮かべる女の子が居た。……私の大切な存在の一つだ。
「……まあ、朝の運動と思えばいいか……」
私は漆黒というぐらいに黒い髪を適当に掻き、ハンガーから服を取る。
いつもの袖広の上着に、白いロングスカート。それに、黒いリボンを巻き付けた唾の大きな帽子。ついでに水色のチョッキも中に着ることにした。
「……行ってきまーす」
私は玄関で靴を履いて静かに言い、ドアを開けた。
私達の家は、木々に囲まれたところにある。そういうわけで、ドアを開けると、直ぐに健やかな森林浴が出来た。
生み出されたばかりの酸素を一杯に肺に取り込み、私は身体を伸ばす。
なかなか気持ちの良い朝だ。
「さて、と」
それなりに目覚めたところで、私は私なりの『散歩』の準備を始めた。
目を閉じ、精神を集中する。
すると私の背中から、木の枝のような物が生え出し、服に開いた穴から羽化する昆虫のように姿を現す。
その枝がそれぞれ透明な布のような物を形成し、鳥ともコウモリともつかない、歪な『羽』を作り出した。
さらに、私が目を開けると、右目の見え方が変わり出した。木々の中の暗い箇所まで、日向と同じくはっきりと見える。この右目は鏡で見ると、黒く変色し瞳が血の色になっていた。
私はそこまですると、羽を動かし宙に浮いた。
そして、目の前の森の中へと入っていった……。
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