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涼子はテレビのスイッチを切った。
パチン。
OFF。
虚像はすぐに消えて、再び画面は灰色に戻った。
涼子の心は枯れた井戸のようだった。
そこに満たされているべき水は見当たらなかった。
水脈は絶たれていた。
二人はやがて短大を卒業した。
節子は予告通り或、小さな出版社へ就職した。
二年間程勤めた或夏の日のことだった。
節子と涼子は夜待ち合わせて一緒に食事をした。
節子はめずらしく終始無言だった。
書きかけの小説のラストがうまく書けないのが原因だろうと涼子は思っていた。
数日後涼子が心配して連絡をしてみると、節子は音信不通になっていた。
節子から手紙が届いたのは三週間後だった。
「突然いなくなってごめんなさい。
私の目の前に私の全てを捧げるべき人が現れたのです。
また落ち着いたら連絡します。」
節子の心の氷は砕かれたようだった。
そして節子は砕いた男の元へと全てを捨てて消え去ったのだった。
涼子は再び一人になった。
街は夏休みを迎えた学生達で賑やかになっていた。
涼子が15歳の時に生まれたせみは、地中からはい出てせわしげに鳴いていた。
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