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その年の初雪はクリスマスの晩だった。
街路樹を彩るイルミネーションは点滅し、人々はその異風景の中で自分の役を楽しそうに演じていた。
路地裏に立つ娼婦たちは稼ぎ時とばかりに積極的に男に声を掛けていた。
その路地はロシア出身の女達のテリトリーだった。
ナスターシャと名乗る女は仲間から離れた所に立ち、故郷で暮らす母親の事を想っていた。
とても厳格な性格の母。
生まれつき右足が不自由でびっこをひいていた。
ナスターシャはその後ろ姿を思い出してみた。
しかし記憶は故郷の激しい吹雪の中で掻き消され、曖昧なものでしかなかった。
ふと辺りを見渡すと、仲間は二人しか残っていなかった。
みんな買われていったらしかった。
コートの隙間から胸元に入る風がとても冷たかった。
きっと雪が降る、とナスターシャは思った。
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