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タクシーの運転手はドアにもたれて眠っているモンドをルームミラー越しに見てラジオのボリュームを下げた。
交通事故により3歳で命を亡くした息子が生きていたらこの客と同じ位の年齢だろう。
明日は息子の命日だ。
別れた妻と毎年墓参りをしている。
この調子だと明日も晴れてくれるかな、
と運転手は思った。
タクシーは街灯の少ない街へと入っていった。
完全に眠りについた街。
何百年もの昔から聳え立つ樹木は葉を揺らし風とダンスを踊ってる。
ひび割れのひどい路面がタイヤのゴムを通してタクシーに振動を伝えている。
深い眠りに落ちたモンドの意識が振動に呼応し始める。
暗く、深い溜まりの底が徐々に動きだす。
遠くから何か動くものが伝わってくるのをモンドは感じた。
それは細胞に訴えてくるものだった。
音だ。
一定の音。
静寂を打ち破る、懐かしいが安堵感を催す音。
母親の心臓音。
それは同時に自分の心臓の音でもあった。
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