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その晩の父は、酒を飲んでもめずらしく母親に対して優しかった。
午後10時を廻り始めた頃、父親は煙草を買いに行って来る、
と言って席を立った。
テレビでは野球のナイター中継を延長して放送していた。
窓辺につるさがっている風鈴は涼しげな音を奏でていた。
涼子はいよいよ銀河ステーションから始まった、
ジョバンニとカンパネルラの乗った鉄道の行き先に思いを巡らせ、
早く帰ってご本を読んでね、
と父に言った。
玄関で靴を履いていた父親は振り返って、
ああ、
と一言言って家を出て行った。
涼子はその時の父親の表情を今でも鮮明に覚えている。
本を読んでくれる時のように優しい顔だった。
でも目だけは笑っていなかった。
哀しそうだった。
父親は二度とは戻っては来なかった。
そして涼子の銀河鉄道はその晩で停車してしまった。
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