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「別れよう。」
それは、突然のことであった。
よく晴れた日曜日の昼下がり。昼食を終え、食後のティータイムをしといるときに、彼は切り出した。
付き合って3年。
同棲を始めて1年。
少なくとも、私は上手くいってると思ってたし、このままいけば、結婚だと思っていた。
しかし、彼は別れを告げてきた。
「・・・そっか。」
なんとも味気ない薄っぺらな言葉が出てきて、正直、自分でも少し驚いた。
「それだけ?」
当然、彼も驚いたようで、目を丸くしていた。
なんで、理由を聞く言葉がでなかったかなんて、わかんない。けど、“別れよう”と言われた言葉に対して、妙に覚めた思考が働いて、飽きたのかなとか、私の何が我慢出来なかったんだろうなんて、考えが浮かんでいた。
「うん。だって、もう、決めたことなんでしょ?・・・それとも、泣いてすがって欲しかった?」
「そんなんじゃないよ。」
ちょっとばかり自傷的ぬ笑った彼の顔は、どこか悲しそうで、理由を聞かなかったことを後悔した。
ゆっくりと立ち上がった彼は、自室に戻ると、ジャケットを着て、カバンを持って出てきた。
「残りの荷物は、後々取りにくるよ。」
じゃぁと言って、彼は握手を求めてきた。私もそれに答えるように、彼の手を握った。
「今までありがとう。元気でね。」
「お前もな。」
私たちの別れは、笑顔であっさりと終幕を迎えた。
彼を見送った後、ティータイムの続きをした。
コーヒーが喉を潤し一息ついて、部屋の中を見回した。
自分が動かなければ、音もない静かな空間。
耳がイタイ。
改めて、ひとりになったのだと実感させられる。
耳鳴りがして、失ったモノの大きさに気づかされる。
何故、引き止めなかった?
何故、理由を聞かなかった?
「・・・なんで?」
今になって出てきた言葉。
「どうして、別れるなんて・・・。」
遅すぎる、彼に伝わることのない言葉。
ふいに彼の飲んでいた、カップに目が止まる。
そこには、液体の代わりに、二人で買った指輪が入っていた。
カップから彼の指輪を取り出し、自分の指に嵌める。
縦に並んだ二本の指輪。
見つめていると、頬を伝う熱いモノを感じた。
end
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