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気づくと、僕はそこにいた。まるで写真の風景の中にいるみたいだった。モノクロの街、動きを止めた人々の波、置き去りにされた僕。どこかの写真展の片隅に、ぽつんと飾られた作品を見ているようだった。
一拍遅れて、僕の頭はその不自然さを認め始めた。これは写真ではない。僕の周囲で止まっているのは、紛れもなく生身の人間だ。陰欝な面持ちを俯け、ある一点に向かう集団だ。彼らの表情は暗い。笑顔はなく、一様に険しい顔をしている。彼らはそれぞれに色彩豊かな服を纏っていたのだろうが、全てモノクロに溶けて、喪服のように見える。さながら、葬列だ。
僕はその葬列の真ん中に立っていた。首を巡らせると、四方に信号が見え、足元に横断歩道らしきものがあり、そこが交差点だとわかった。車は見えない。交差点からビル街へ続く道という道を、たくさんの葬列が埋め尽くしているからだ。
さすがに、おかしいと思った。これだけの人が列を成して、皆、同じ方向を向いている。そして誰一人、前には進まない。
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