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俺が『桐谷』という邸に来たのは弱い13の冬だった。“来た”という言い方には違和感がある。…俺は13の冬、桐谷という邸の前に捨てられた。
「おや?これは…仏からの贈り物かな?」
邸の主は、門に寄りかかって座っている俺に手を差し出した。
「ちょうど夕食の準備が終わったんだが、我が家には奉公人含めても10人しかいないんでね、量が多すぎる。君さえよかったら食べてくれないかい?」
各所が摩り切れた麻の服を着た素足の子ども。一体どれほど哀れに思ったのだろう。何としても俺を邸の中に入れようと優しい言葉をかけてくる。
「…な…」
「え?」
「俺に触るな!!」
一時的な優しさなんていらない。どうせまた捨てられるならこのまま放っておいてほしかった。
「じゃあ触らないから早く入って。門閉めちゃうから」
門から顔を出した少女は不機嫌そうに俺を睨んだ。彼女は俺の存在が不快なのだろう…当然のことだ。
「かんな…そう恐い顔をするんじゃないよ」
“かんな”というのが少女の名前。俺から目を逸らし桐谷に向けた目は、今までのそれとは違い、優しい目だった。
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