天文10年(1541年)  5月 『海野平の戦い』

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   海野城の西方にある真田郷に戻ると、思わぬ報せが舞い込んできた。  矢沢氏が武田軍の調略に応じた……と、三番目の弟の常田隆永(ときた たかなが)が告げた。 「頼綱が裏切っただと?」と、幸隆が聞きかえしたのも無理はない。  幸隆の次弟矢沢頼綱(やざわ よりつな)は、真田家一の頑固者だ、と亡父が苦笑するほど気骨ある男だった。はじめは、出家させようと、寺に出されたのだが、 『俺の気性にはむかぬ!』と、寺から逃げ出し、矢沢氏の養子となっていた。    「隆永、もう一度考え直せ、と言ってこい」 「嫌です!」 「なに?」    幸隆は、こいつも裏切るつもりか、と苛立ちながら聞きかえした。  
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