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馬に跨(また)がり、虚空を睨む。空は暮れはじめ、赤紫に染まっていた。
幸隆は口元を固く結んでいた。
(頼綱のために真田の地を失ってしまうとは……)という苦しみを噛みしめていた。
馬首を並べて駆ける宗介は、もとは百姓の出自だが、落ち着いた所作と果敢さで幸隆に目をかけてもらえるようになり、近習にとりたてられた。まだ十代の半ばである。
「どうだ、宗介。今から信虎の陣の近くまで行くが、怖くないか?」
「いえ、楽しみです。信虎がどんな男なのか」
宗介は余裕のある笑みを浮かべていた。こういう純粋さを持つ宗介が頼もしくもあり、羨ましくもあった。
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