鳶色の瞳

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   得物をうばわれて、幸隆に隙ができていた。そこで両者の馬が二人を引き離したので、相手は攻撃できなかった。  離れるとともに、幸隆は右手で素早く抜刀した。  二人は馬を方向転換させ、睨み合った。  同じタイミングで馬の脇腹を蹴り、疾駆(しっく)させる。  距離が徐々に縮まる。男は槍をすぐ繰り出せるように引きつけ、幸隆は穂先を払いのけるため刀を手元に引き寄せている。 (槍には敵わないだろうな)  幸隆は苦い表情になっていた。  しかし、今更どうすることもできない。現に避けることもできないほどに接近していた。  緊張が最高潮に達したとき、男が槍先を滑空させ、幸隆は無我夢中で刀を一閃する。  鼓膜を切り裂かんとする高音が鋭く響いた。  刀と槍の刃が衝突した。
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