鳶色の瞳

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 『若様』と呼ばれた男を思いだしながら、幸義の屋敷にむかった。 (あいつは……本物の武将だな)  激しい攻撃をするときも、瞳は落ち着き払っていた……戦っているときの幸隆は、その瞳の美しさに魅了されそうになっていた。    そうした不思議な恍惚感にとらわれたまま、幸義と対面した。   「どうであったか?」    幸義が訊ねてきた。瞳には、激しい焔が映じている。 「途中、敵に遭遇したため、本陣まで偵察できませんでした」 「そうか。武田は用心深いようだな。だが安心しろ。村上は油断している。やつならばうまく翻弄できるだろう!」  油断? と幸隆が聞きかえす。 「ああ、敵は本陣に兵を多く集めている。つまり、領地にはさほど兵は残っていないはずだ!  さて、幸隆殿、貴公が知恵者だということは、俺もよく知っている。そして一目置いておる。が、今回ばかりは俺の策にしたがってもらおう」 (こんなふうに言ってくるとは珍しいな)  と、思った。無論、反対する気はない。 「よろしいでしょう。それで、どのような策にするのですか?」
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