夜…。そして…。

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その日の夜遅く、誰もいなくなった頃…。 「……」 少年はまた同じ桜を眺めていた。 「……ねぇ」 そして、少年は桜に話しかけた。 「隠れてないで、出てきなよ」 少年が言っても、周りはなんの変化もない。 「ねぇ、そこにいるのはわかってるんだから。いい加減出てきたら?」 少年はもう1度言った。 ザアッ すると、いきなり桜吹雪が起きた。 「っ…」 少年は驚いて目を瞑った。そして、風が止むのを確認してから、ゆっくりと目を開けた。 「!?」 すると、桜の太い枝に、1人の少女が座っていた。 「やっと姿を見せた…」 少年は少し呆れ気味に溜め息をついた。 「あなた、私が見えるの?」 少女は疑うような目で少年を見て言った。 「見えなかったら声、かけてないんだけど」 「あ、そっか…」 「…………ねぇ、なんで君はそこにいるの?」 少しの間のあと、少年は少女に言った。 「…………わからない」 少女は少し悲しげにうつむきながら言った。 「…そっか」 少女の言葉を聞いて、少年は悲しそうに笑った。 「………もう、時間だ」 「え?」 少女がポツリと言うと、少年は驚いて顔をあげた。 「君に、頼みがあるんだけど…」 少女は、少し遠慮気味に少年に訊いた。 「僕に、出来ることなら…」 少年の言葉を聞くと、少女は嬉しそうに笑った。 「私が『見えた』君だからこそ、お願いするの」 そう言って少女は木から降りて少年の前に立った。 「明日、大人を連れてこの木の下を掘って欲しい」 「この木の?」 「うん」 少年が訊き返すと、少女は悲しそうに笑った。 「掘れば…、わかるから…」 「……うん。わかった」 少年がそう言うと、少女は悲しそうに、しかし、嬉しそうに笑った。 「ありがとう…」 少女がそう言うと、少しずつ、少女の姿は消えていった…。 「君の…名前は?」 少年が訊くと、 「桜」 と、一言だけ言って、少女は消えた。 翌日、少年は桜に言われた通り、桜の木の下を掘った。 そこからは、一人の少女の死体が出てきた…。 春の夜の、不思議な出来事…。 END
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