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その様子を見たデイジーは盛大にため息をついて
『ああなったら戦車持ってきても動かないわよ?ハア、今日は早めに帰れると思ったのに。』
ケインは腕時計を見て仰天した。
『げ!なんてこった!』
見ればとっくに夕食時を過ぎており、ケインの頭には鬼の形相の母が浮かんだ。
『良いわよ、先に帰って。』
デイジーはもう諦めた風な表情で言った。
『良いのか?』
『アタシは家近いし親父に飯作るついでにこいつに差し入れ持って行くから。どうせ今日はこいつ寝ないわよ。』
デイジーは漁師の父親と二人暮らしであり、サイモンはスラム街の出で現在一人暮らし、殆どアジトが家と言う生活をしていた。
『すまん!恩に着る!』
『良いから行きなさい。アンナおばさん、きっとカンカンよ?』
デイジーのその台詞を後に、ケインは雨の止まぬ外を駆けて行った。
途中、騒がしい音を聞いたケインは耳をすました
『………サイレン?パトカーか!?ヤバイ、アレが見つかったら…』
と危惧したケインの前の車道を消防車が数台けたたましいサイレンと共に走り去って行った。
『消防車、火事か?かなり大きいな。』
一瞬見に行くという選択肢も頭に浮かんだが、母の顔が過ぎった途端に吹き飛んだ。
『いっけねぇ!』
さして重要視する事も無く、ケインは消防車の向かった方角とは反対方向に向かって走り出した。
家まであと少しという所で、ケインは曲がり角で誰かとぶつかった。
『おわ!』
『きゃ!』
ケインは何とも無かったが、相手はそうわいかなかったらしく、ドサッと倒れる音がした。
『あ、すいません!怪我は無いですかいいぅえ!?』
慌てて駆け寄ったケインは仰天した
倒れていた人はどうやら少女らしく、小柄な躯と長い髪がそうと物語っていた。
問題はその姿だった。
彼女はこじきが着るようなボロ布を羽織っており、倒れた体勢から太股と胸元が覗いていた。
つまりは布の下は全裸だった。
『お?え?こ、こ、ひ?』
ケインは何が何だか解らずに狼狽するばかりである。
『……あ。』
少女が口を開いた。
ケインは何とか落ち着き耳を向けた、
『…………あ、』
『あ?』
『……アップルパイ。』
それだけ言うと少女は力尽きた様に倒れた。
『………な』
『なんじゃそりゃーーーーーーーーー!!!』
夜の住宅街に絶叫が轟いた。
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