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結局、下手に動くと逆に相手を刺激するだろうと考えたケインはスクラップ置き場へと続く道を若干遠回りに歩いていた。
「ねえ、ケイン。どうしたの?」
平常を装っているつもりのケインであったが、ノアには隠せ無かった様だ。
「実は、軍が嗅ぎ回ってるんだ。多分、君の事で。」
しかしノアは予想より落ち着いた様子で、
「ああ、やっと来たんだ。もう少し早いと思ってたけど、パパは案外のんびりやさんね。」
やれやれと肩を竦めるノアに対し、ケインはポカンとするばかりだ。
「ノアは知ってたのか?」
「まあね、大体連中が私を逃がす理由が無いわ。」
昨日までの言葉遣いとは打って変わってぞんざいに話すノアの様子に、ケインは更なる疑問を抱いた。
「ノア、君は一体…」
「箱舟。」
「…何だって?」
ノアは昨日と同じ様にケインの二歩前で振り返り
「私は、箱舟。」
それは一体、というケインの疑問は、口にされる事は無かった。
「そこまでだNO:N。一般人を巻き込むな。」
しまったとケインが思った時には既に遅かった。
二人の周りに黒服の男達が現れる。
「良い所だったのに。」
こんな状況で子供のようにふて腐れるノアは何となく場違いな雰囲気を醸し出していた。
「ノア!下がって、ぐぅ!?」
不意に後頭部に響く鈍痛。
ケインの体が傾く、
「ケイン!」
ノアが咄嗟に支える。
「すまんね、少年。No.Nは返して貰うよ。」
男がノアの肩を掴み、引き離す。
よろめくケインの両脇を男達が抑えた。
「ま……てよ。」
「そうはいかん。本来ここまで関わった君はここで射殺されても文句は言えないのだよ、少年。」
男の無慈悲な声がケインを揺らす。
「まあ、私も鬼ではない。忘れたまえ、少年。そうすればまたハイスクールに通えるさ。」
男がノアを黒塗りの車に押し込もうとする。
「お…い……ノア!」
ノアが振り返る。
「……またアップルパイ、食いたいか?」
ノアは、
一瞬キョトンとして、
頷いた。
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