夢を喰らう猫と暗い部屋の窓際で

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   都心に程近い隠れた格安物件。家賃四万二千、風呂無しトイレ共同のボロアパート。危うく時代背景を忘れてしまいそうになるほど、殺風景な四畳半。  床はゴミが埋め尽くし、畳の姿をほとんど覆い隠している。  寝床とギターさえあればいい、と息巻き故郷を飛び出してから早四年。カップ麺の容器や空き缶が転がる汚い部屋で横になり、夢を見た過去の自分を呪う日々が続く。  スタンドに立て掛けたままのエレキギターは埃にまみれ、音を奏でない日々に、この腕と共に錆びついていくだけ。  ――相棒に触れなくなってから、もう一年が経つのか。  錆びついた弦は、触れるとこの指を噛み切るだろう。きっと、あいつにも夢があった。そして俺はそれを壊したんだ。    窓の外では雨音が心地よいメロディーを奏でる。自然の旋律にも、昔はだいぶ助けられたものだ。『私にとっての音は、零からじゃなくて一から作るもの』、そう有名な作曲家が言っていたらしい。名前すら思い出せないが、その言葉にどれだけ救われただろう。 「もう、関係無いけどな」  体を起こして、雨音に寄り添うように壁へともたれかかった。  昔は良かった。同じ夢を持ったメンバーと上京して、必死にバイトもして、稼いだ金でライブに出て、安物だけど機材も揃えて野外でも歌った。  死ぬほど苦しかったけど、死ぬほど――楽しかった。  みんなでバイトの時間を出来るだけ合わせて、空いた時間は集まって……。俺たちだけの曲が出来上がる度に、跳ね上がるぐらい喜んだっけ。  一番楽しかったときだった。一番頑張ったときだった。  なのに、少なくとも俺はそう思っていたのに、みんなは違った。  息つく暇も無いような日々にやつれ、弱音を吐いた。次第に、みんなの時間が合わなくなっていった。  東京に出てきてたったの二年で、俺は一人になっていた。いや、まだ相棒がいたな。あの時は。  ――でも、今はそばにいない。手を伸ばせば届くのに、怖くて、また何かが壊れてしまうのかと思うと怖くて。
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