全てのハジマリ

3/17
1055人が本棚に入れています
本棚に追加
/1347ページ
「……初対面の者にこうも綺麗な土下座が出来るとは。プライドは無いのか?」 「……見ての通り、プライドだのなんだの言ってられる状態じゃないんだ」 プライドで腹は膨らまないからな。 「ふむ。野盗にでも襲われたか―――っ!?」 女は、何故か固まった。 なんか驚いてるみたいだ。 「羽と尻尾……!? お前、悪魔なのか!?」 あ、ヤバ…… 悪魔は恐れられる者、驚くのも当然だ。 ……そうだった気がする。 ここで悪魔だってバレたら、助けてもらえないんじゃないか? よし、ここはごまかそう。 「あ、いや、いやいやいや!! ち、違うって!! ただ格好を真似してみただけだって!!」 「そうなのか? ならば千切ってみてもいいか?」 「悪魔です。僕悪魔。悪魔だけど助けて」 ……一瞬マジな雰囲気が漂ってた。 ていうかなんで千切んの? 引っ張るくらいでいいじゃん。 「……ふむ」 女は考え込む。 ……なんで考え込むんだ? 普通、逃げるはずなのに。 なのになんで悩むんだ……? 「……うん。助けよう」 大きく頷いて、手を差し出す女。 「―――」 言葉が出ない。 なんで、なんで悪魔を助けようと思うんだ……? 「……あんた、悪魔が恐くないのか?」……黙って助けられればいいものを、好奇心から聞いてしまった。 「なぜだ? 傷ついている者を助けるのは常識だろう? それに、助けてと言ったのはお前だ。その訴えに応えた。それが不満か?」 「いや、不満とかじゃなくて」 「ここで私が助けなかったからと、石を腹に詰め込んで、どっかのオオカミみたいになった後、私を恨んで餓死されては夢見が悪いからな。それだけだ。……まぁその状態、ちょっと見てみたいが」 「……見てみたいのかよ。じゃなくて、普通は恐れたりするものだったような気がするけど……?」 そう。 悪魔は皆から恐れられる存在……だったはず。 ……けど、なんか今のでちょっと自信無くなってきた。 「……気がする?」 「ああ、知識以外全て忘れてしまったんだ。俗に言う記憶喪失ってやつ……だと思う」 ほぅ、とつぶやくとそいつは 「私についてこい。飯を恵んでやる」 そう言って、歩き出した。
/1347ページ

最初のコメントを投稿しよう!