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そもそも恋人である鉄二の車を降りたのは、ほんの些細な口論が原因だった。
有名な夜景スポットで景色を楽しんだ帰り道、この日何度目かの口論になった。
思わず車を降りると言った杏璃を、鉄二はさっさと降ろして行ってしまったのだ。
杏璃はそんな彼を思い返して、最低の男だと心の中で罵った。
「どうする?」
男の低い声がした。
「嫌なら無理にとは言わないが……」
顔を上げ男を見るが、暗いので表情までは読み取れない。
「この山道を歩いて帰るよりは安全だと思うが」
杏璃は男に聞こえないように、小さく息を吐いた。
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