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「分かった」
短い沈黙の後、悠河の運転する車がコンビニの駐車場に滑り込む。
サイドブレーキを引いた悠河に杏璃は向き直って頭を下げた。
「今日は本当にありがとうございました」
時計はもう11時を回っていた。
「ぜひお礼をしたいので連絡先を教えてほしいんですが……」
「いや――、礼なんかいらないよ」
「でも」
もしかすると連絡先を教えたくないのかもしれない。
食い下がろうとした杏璃の脳裏にその可能性が浮かび上がり、言葉を続けることができなくなった。
「気をつけて」
杏璃が車を降りると悠河は窓を開けてそう言い、車を出した。
低いエンジン音が遠ざかるのを聞きながら杏璃はため息を吐く。
おそらくもう会うことはないだろう。
なんだか今日一日で起こった様々な出来事全てを忘れたくて、足早にコンビニに入った。
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