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高2の冬休みの出来事。
所属していた陸上部のオフがやけに多く、まだ受験勉強を始める訳でもなく、おそらく暇を弄ぶであろうと容易に予測できた僕は、デパートの地下食料品売場で短期バイトを始めた。
短期バイトということもありあまり仲の良い人をつくろうという気も起きず、それ以前の問題で同年代の人が全くいない状態で、一人寂しく黙々と働いていた記憶がある。
そのデパートの地下1階食品売り場での出来事。
その日は飲料水が安くなる日で、品物の流れが早かった。
普段は冷凍食品の補充係だったが、その日は特別飲料水の補充を手伝うことになった。
ちょうど、アンパンマンの小さいパックジュースを補充している時、小さな女の子(5歳くらい)が若いお父さんと一緒にキャイキャイいいながら飲料水コーナーに来た。
単調作業の繰り返しで集中が仕事以外に散漫していたので、二人の会話をなんとなく無意識に聞いていた。
「アンパンマンジュースが欲しいの?」
とお父さん。
「うん」
「ママに聞いた?」
「うん。聞いた」
的なアットホームな会話がなされていたと思う。
正直前半部分はうろ覚え。
その後のやりとりは鮮明に覚えている。
はしゃぐ女の子にアンパンマンジュースを渡して、補充用のカートのタイヤのロックを外し裏方に戻ろうとした時、女の子が甲高い声で言った。
「パパ! あんな所に人いるよ!」
お父さんは、どれどれと女の子を抱きかかえて、女の子が指差す方向を見た。
つられて僕もその方向を見る。
指はカップラーメンコーナーの棚に向けられていた。
カップラーメンを選んでいる買い物客も、補充する店員もいなかった。
「どこ? どんな人?」
とお父さん。
「女の人だよ。こっちをじっとミテル。パパのお友達?」
お父さんはしばらく無言で立ち尽くしていた。
そして「いないよ、そんな人」と言ってその場を立ち去ろうとした。
「やっぱりパパの友達だよ! すごい笑ってるよ!」
「…………」
俺には見えませでした。
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