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私はあの日以来、極力エレベーターには乗らないようにしています。
仕方なく乗るとしても、絶対一人では乗りません。
目的階が10階だとしても、一人だったら階段を使うでしょう。
私がエレベーターに乗れなくなってしまったのは、中2の夏の出来事のせいです。
当時私はマンションに住んでいました。
13階建てのマンションで、2階に住んでいました。
2階に上がるためにわざわざエレベーターなんてほとんど使っていませんでした。
ちょっと登ればすぐ2階です。
それに、たいていエレベーターは4階か5階に止まっていて、下まで降りてくるのを待つ気にもなれなかったのです。
しかし、あの日の私は部活で疲れきっていました。
私は迷うことなく、エントランスからエレベーターに向かいました。
その時エレベーターは4階に止まっていました。
私は上ボタンを押してエレベーターが降りてくるのを待ちました。
エレベーターの厚い扉のわきの壁には、液晶画面が埋め込まれていて、画質の荒い映像を流しています。
私はぼーっとその画面を見ていました。
画面にはエレベーターに設置されている、監視カメラから送られてくる映像が映っていました。
中には若い女の人が乗っていて、エレベーターの後方の鏡でメイクのチェックをしているようでした。
私は「綺麗な人だなぁ」と思いながら画面をずっとみてました。
間もなく、エレベーターが1階につきました。
私は画面から目を離し、今度は実物を見ようとエレベーターに目を向けました。
「1階です。」とアナウンスが流れて、エレベーターの扉が開きました。
そこには、鏡にポカンと写っている自分しかいませんでした。
女の人は、いませんでした。
1階に到着するまでの間、エレベーターは一度も止まっていません。
その日以来、私は怖くてエレベーターに乗っていません。
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