出会った季節

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「ふ~ゆ~と!飯食い行くぞ、飯!」 「んあ……あぁ」 講義が終わり、すっかりざわついた教室の中でも一際目立つ程にでかい声。そんな声量の持ち主は俺の座る机の真ん前にいるようだ。 俺はあくびをしながら返事だけはして、枕にしていた腕を組み直しながら再び机に突っ伏す。気だるかった夏も終わり、徐々に過ごしやすい気候になってきた。故に俺は惰眠を貪っている最中だった。 「おい、ふゆとってば!」 「っていうかさ……ふゆとって呼ぶな!!」 「うぐっ!……良い右ストレートだ、った」 俺の名前は柊托斗、心理学を専攻している大学生だ。そして俺の目の前で悶えているのが三舟秀介……通称、歩くサンドバックだ。 「今さ、失礼な事考えなかった?」 「いいや、全然。それより何度も言わせるな……俺は“ひいらぎたくと”だ!」 ホントに嫌味な奴だ。俺の名前を見るなり、初対面にも関わらずいきなり“ふゆと”と呼んできやがったのがこの秀介だ。まだ知り合ってから半年程度の付き合いなのだが未だに改善の余地なしである。何度も訂正してんのに……。 「良いじゃん、ふゆとで。そっちの方が何かカッコいいだろ?」 「あぁー……もういい!飯行くぞ飯!」 肩を怒らせて歩く俺の後を、秀介はからかいながらワンテンポ遅れてついて来る。……不思議と秀介と一緒にいると退屈しない。 が、かと言って良い思いをした経験は数える程しかない。いや、一度だってなかったような……。とりあえず、やる事成す事全てがハイリスクローリターンだ。これについて色々と逸話があるが、それを語るのは別の機会としよう。
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