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早く目を覚ましてほしいけど、今日ばかりは自分のせいだと分かりきっているから、自然に夢から覚めるまで待とう。
とは言え、可愛い顔で可愛い寝息をたてるその顔を、ジッと見ていることもそれはそれで幸せだ。
……ああ、そういえばさっき思い出したあれだ。風呂場の掃除をしなくてはいけない。
起こさないようにそっと起き上がり、そっとベッドから足をぬく。散乱したものを拾って洗濯機に放り投げ、顔を洗い歯を磨きながら浴場を覗くと、目も当てられない光景が飛び込んできた。とんでもなく……つまり汚れている。しまった、軽く流すだけでもしておくべきだった。
これは眠り姫が覚醒する前に、掃除を終えてしまわなくてはいけないな。
熱湯レベルのシャワーをタイルにかけた後、緩くなったものをブラシで擦りながら、ある種の情けさを感じている。自分の体内から出たモノを翌日の朝、どうして自分で一生懸命に掃除しているのか。それは自業自得そのものではあるのだが。しかも当然なのだが。虚しい、なんとなく虚しい……それにしてもちくしょう、なかなかとれないな。
奮闘していると、遠くでカタンと音が聞こえた。
ベッドルームに戻ると、目を覚ました麗奈がぼんやりと俺が寝ていた場所を見ていた。
「……おはよう」
挨拶をしてみると、飛び下りる勢いでベッドから出て、俺の胸めがけて走り寄る(突進してきたとも言う)。なんて謝ろうかと考えていたけれど、思いがけない行動に言葉を失う。
「麗奈?」
「怒ってどこかに行ったかと思った」
「怒る? どうして?」
「だって……」
「ん?」
「昨日の篤志、恐かった……」
涙を浮かべて目を合わせることもなく、消え入るように発せられた言葉が突き刺さる。本当に最低だな、俺は。
昨夜は完全に頭に血が上ってしまい、完璧に理性というものが吹っ飛んでいた。抱いていた時の記憶すら曖昧なほどに。
結果、こうして麗奈を傷つけていたのだ。……死ねよ自分。
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