ピアス

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少女の耳に穴が開いたのは、中学一年生の時だった。 小さな頃からずっと見てきた飛鳥に、いったい何があったのだろう。いつもは綺麗に澄んだ瞳が赤く充血していて、二重のはずの瞼は見るかげもないほどに腫れているのに、思いっきり笑顔を見せて、右耳に光るシルバーを自慢していた。 「自分でやったの。きらきらでしょ?」 シルバーの周囲にはまだ痛々しく血が滲んでいて、俺は心配していたけど、そんな状況にも関わらず、飛鳥の表情は不自然なほどに明るかった。 ……それから数日後、飛鳥が学校でいじめられていることを知った。 誰にも言えずに一人で苦しんでいたことに、俺は気がつけなかったんだ。 いつも一緒にいたはずなのに、大事な女の子を守れない自分に絶望した。 歳を重ねていくのに比例してどんどん綺麗になっていく飛鳥は、良くも悪くも目立つ存在だった。大人びた外見と人見知りをする性格は、容易く誤解され、彼女の学校生活を悪くする一方だったんだ。 少し不器用なだけで、本当は明るくて、すごく優しい女の子なのに。 そんなことも分からない奴らと友達になんてならなくったって……───俺がいつも近くで守ると誓っていたのに─── この時から、彼女の耳にはどんどん穴が増えていき、そのたびに俺は自分の不甲斐なさに打ちのめされた。 あれから四年。十七歳になった飛鳥の両耳には、七つのピアスが納まっている。 ビターチョコのように深いブラウンの髪が、風に吹かれて現れる耳を見るたびに、胸が痛む。 自分に何度絶望しただろう。彼女のピアスが増えていくことを止められない、力の無さ…… いつだって一番近い存在は俺のはずで、もういつだったか分からないほど前から傍にいるのに。 本当の意味で守れる強さがほしい。 泣いて泣いて泣いたあとに、傷痕が残ってから気がついて、そんな今の状況をいくら反省したって遅いじゃないか。
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