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「ずっとずっと好きだった。本当にずっと……」 僕の頬に左手を添えたと思ったら、シャンプーだろうか。甘い香りに鼻をくすぐられ、気がつけば唇を奪われていた。 茫然自失の僕に君が言い放つ。 「可愛いなあ……」 あろうことかこっちが奪われてしまうなんて。 相変わらずくすくすと、まるで少女のようにあどけなく笑う君はやっぱり綺麗で、やっぱり悔しい。 ごくりと息を飲み込む。 腰に腕を回し、もう一方の手で顎を掴み、今度は僕が奪ってやった。息もつけないぐらいに何度も何度も口づけたあと、下唇をぺろりと一舐めして離れると、薄紅色に変化した頬に瞳はとろとろに溶けていた。 ほんの数分前には、触れることすら叶わなかった君が、ひらひらと自由に美しく舞う蝶のように奔放に、僕を翻弄していた君が今、目の前でそんな顔をさせているのが、自分だと思うと、気持ちが繋がった時よりもどきどきした。 臆病な僕のこれからはきっと、前途多難な恋になるんだろう。生意気に振る舞う君の本当は、僕と同じく臆病で、年齢よりも幼い可愛さを持っていると知ることになるのは、もう少し後のおはなしだから。そしてそんな君を知ったとしても、僕は君にどきどきさせられることに変わりないから。 君の世界から抜け出せない僕は、きっと幸せな監獄に堕ちているのだ。 FIN.
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