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「……あのね、理園(りおん)」
奈津美は、あきれたように目の前に座っている佳山(かやま)理園を見ていた。
「確かに、私たちの仕事は出会いから新生活までトータルサポートをする会社ですけどっ」
「だったら、問題ないだろ? 別に無茶なことは言ってない」
憮然とした表情の理園は腕を組んで、そっぽを向いている。
「おまえなぁ……それはいくらなんでも、あいまい過ぎるだろう」
同席していた蓮も奈津美の横であきれたように口を開く。
「テレビ局ですれ違った女性に一目ぼれしたから探してほしい、なんて」
「明らかに管轄外でしょ、その仕事!」
奈津美は机を叩いて立ち上がり、机越しに理園をにらみつける。
「うちは探偵事務所じゃないのよ」
「だから、特徴はさっき、言っただろう? 赤いハイヒールの似合う黒髪の女性」
「理園……それは特徴とは言わない! 髪型だとか背格好、その日に着ていた服装を伝えて初めて『特徴』と言えるんだっ! 赤いハイヒールが似合う女性なんてあいまいな情報だけで探せるか!」
蓮の怒りももっともだ、と奈津美は横でうなずいている。
しかし、依頼主の理園はさらに食い下がる。
「黒髪、というのも特徴だろう?」
「もっと情報はないのか?」
蓮の言葉に、理園は眉間にしわを寄せ、悩んでいる。
「足元に気を取られていて、いや……それが」
理園のその言葉に、奈津美は大きくため息をついた。
「……蓮、聞いていい?」
「いや、オレに聞かないでくれ」
「葵さんに育てられたから、こんな変態に育っちゃった?」
「ねーさんは忙しくてほとんど子育てには参加してないはず。実質、オレのお袋が……あ、なんだ、その疑いの目はっ!」
「同じ人に育てられて、こんなに違うとは思えないから……実は蓮も隠しているだけで、理園同等なのかと思って」
「ごっ、誤解だっ!」
フェアリー・テイル第二打ち合わせ室に蓮の悲痛な叫びが響いた、とある日の昼下がりの話。
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