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ところ変わって、社長室。
普段はあまり利用せず、他の社員と同じフロアで仕事をしている奈津美と蓮だが、込み入った話などをする時はここを利用していた。
内緒話は好きではないが、それでも仕事をしているとどうしてもそういう場面に遭遇してしまう。
社員からの相談事を聞くときも、ここは大いに役立っていた。
「ったく、あいつはなにをしにきたんだっ」
理園は電話で呼び出されて挨拶もそこそこに、前金だからと銀行の封筒を置くと、そそくさと去っていった。
蓮と奈津美は中身を見て、大きくため息をついた。そこに入っていたのは。
「子ども銀行の貨幣なんて、うちの孫でも喜ばないようなものを置いていきやがって。あいつはどこまでオレたちを馬鹿にしてるんだ」
「双子は意外に蓮の空気を呼んで、喜んだ『振り』はしてくれると思うわよ」
奈津美の言葉に、蓮はさらにため息を深くする。
「あいつは昔っから人を馬鹿にしたことばかりをする子だったんだ。しかもあれ、計算してやってるんだぞ。信じられるか?」
「天然じゃないのなら、いいじゃない」
「天然じゃないから、なおさら悪質だろう、あれは」
おかしそうに笑っている奈津美に、蓮は眉間にしわを寄せ、もう一度、銀行の封筒を見る。
「そんなににらみつけても、おもちゃのお金は現金にはならないから」
奈津美は次に来る客の情報を頭に詰め込みながら、苦笑する。
「……次の人は?」
「インターネット経由で予約を入れてきた人。最近、ホームページ経由で依頼を入れてくるお客さんが増えてきてるのよね」
「そうだな。そういう人たちは似たようなサービスを比較してうちを選んできてくれているからな」
うれしいような、プレッシャーのような複雑な心境である。
「さて、ホールに行って、待ってましょうか」
奈津美と蓮は部屋を出て、エントランスホールへと赴いた。
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