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視界に広がるのは落ちる天井の破片と、それを縫ってやって来る青い輝き。
青白い光を映す眼鏡に隠れた左目が、細く会長を見つめている。
「会長」
「一人でやるわ」
「違います。こっちの身にもなって欲しいと言うことです。リペアもバリアも楽じゃないんですから」
…何をする気なんだ?
俺には冷静さは既に無かった。ただ目の前の状況を受け止めるのが精一杯だ。
ここは人間の住む世界のはずで、少なくとも人間が自ら光を発するわけがない!
しかし目の前の光景はそれらを全て打ち砕いて、新たな常識を俺に植え付けつつあった。
俺は、俺の知っている人たちは、この世界の『当然』をほんの一部しか知らなかった…のかもしれない。
そこまで考えたとき。
突如、荒れ狂う砂嵐の中で思考を本能が凌駕し、俺は感じた。
体が横に風でえぐり取られる感覚を。
しかし体にはまだ何も起こっていないようだ。今のは……錯覚か?
「──爪圧!」
掛け声と共に会長が右腕で前方を横に斬った。その間も本能は告げていた。
ここに立っていたら、死ぬ。
刹那、体が勝手に後退した。まるで素足で乗った熱い鉄板から飛び退くように。
次の瞬間、俺がさっきまでいた床は横に吹っ飛んだ。
「────!?」
尻餅をついている俺はこの上なく驚倒していた。
俺の目の前の床はどうして無くなっているんだ?
そして俺に今何が起きた?
ところが会長にまで驚きが張り付いている。気づけば、場にいる全員が驚きを隠せていないようだ。
辺りを静寂が包み、やがて会長の眉がピクピク動いているのを容易に確認できるまでに俺の精神も静かになった。
「やっぱりただ者じゃないんだね」
この海留の一言で、俺以外の皆が驚いた理由がわかった。
なぜ俺がこの攻撃をかわせたか、だ。
それは俺自身も不思議に思う。
風の警告―――
「常人はおろか命裁師でも、咄嗟にかわすなんて困難なのよ」
ようやく口を開いた会長は、俺以上にこの状況を信じられていないらしい。
「不思議な力だね、ひょっとして相手の攻撃を読めるとか?」
……一体俺は何をしたんだ?
本能で運命をねじ曲げたのか?
法則では成り得ない方向に。
「良いわね、面白いわ!」
崖の向こうの会長が、強い眼光をこちらに飛ばしている。
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