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「しっかし良くやったよお前は」
夜崎秀悟は言う。
俺は意識不明のまま闇の中をさ迷い、帰ってきた頃には教室の針が授業終了を示していたのだ。てか、誰も保健室に運んでくれないとは。
「自分でも寝るつもりはなかったんだよな」
改めて不思議な話だ。あの皇帝に易々と脳天を見せるなど、死んでもやらないし、やったらそれこそ死んでしまう。
「後で職員室だってなぁ?良き指導を」
「せーよ薄情もの!同情とか、せめて保健室運ぶとか無かったのか!わざとじゃなかったんだからよ」
この悪友には失望する。励ましてくれてもいいものだが。
ま、仕方ない、行くしかないか。俺、真島境夜の生還率は低いが。
「昼休みに行くんだよな?」
「ん?そーだ」
せめて放課後にしてくれれば。これじゃ飯食う時間が無くなっちまう、が、この際贅沢はできないのである。いやいや、そんな呑気なこと言ってる場合じゃないぞ!葬儀屋の手配と遺言書を──
「ところでさ、お前なんか変わったか?昨日と比べて」
と不意に秀悟が言い出す。変わっただと?さっきの脳天ブレイクのせいで身長は縮んだかもしれんが。
「なんかこう……うねってる感じ?」
人に対してうねるという表現が当てはまる状況はあるのか?お前の脳内はきっとうねっているだろうけど。
というずば抜けて怖い世界史の授業を除けばそこらの高校と何ら変わりのない退屈授業が羅列し、来て欲しくない地獄の時間を時計が示した。
昼休みを恐怖の時間に感じたのは初めてだ。
教室は授業中より明らかに賑やかになっていて、机をくっつけて飯を食う奴らも珍しい風景ではなくなっていた。どうせ皇帝の話で意気投合でもしたのだろう。
そんな幸せ全開の教室を後にして一人、化け物に食われに行かにゃならない俺の心中を察する人間などはとっくのとうにこの教室から消失している。保健室の数人のみが仲間だ。
一人で化け物に立ち向かう新米勇者の気持ちが今になって分かった。悪かった勇者、今度は沢山アイテム持たせてやるから。
「ここか……既に魔物のにおいがする」
職員室前、思わず独り言を呟いてしまう。ホントに気配がするのだ、仕方ない。
戸を開ければ、鋭い眼。
俺は帰宅欲を猛烈にくすぐる視線に釘付けに、いや、釘刺しになった。目を反らした瞬間に尖った何かが飛んできそうな勢いだ。
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