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「ようやく来たか」
皇帝の声が耳を震わす。
「早速だがこれを」
皇帝は脇にあった机の引き出しから何やら丸めた紙を取りだし、雑に手渡した。輪ゴムで簡易に円柱型に固定している。
「これをどうしろと?」
この質問は重要だ。まさかこれを丸飲みしろと?いや、だったらイガ栗とかを渡してくるはずだ!
「生徒会室に届けてくれないか?」
「…え」
意外や意外、配達だって?こんなまともな刑罰だとは。幸運の女神とは本当にいたんだな、今だったら何をお供えしてやってもいいよ。
「俺は個人的にあそこは嫌いなんだ」
「あ、そうなんですかぁ」
さすがに嬉しさが口調からにじみ出てしまう。それに呼応するように鼓動もやがてにその勢いを抑えていく。
「任せた」
よし、じゃあさっさとこれを生徒会室に配達して
───んっ?待て、何かが引っ掛かる。
なぜこの程度の罰で済んだんだ?本当にこれで良かったのか?
まさかと思うが、皇帝の教育指導と同じくらいの恐怖が、この宅配には詰まってるとか?
いやぁ、ないない!たかが公立高校の生徒会ヘの配達!確かに入学式に会長の言葉とかは無かったが──
不自然か。
もしくは、この丸めた紙こそが恐怖の源なのか?自爆する紙とかは聞いたこと無いけどな。
てか、なんにせよこの人は仮にも教師なんだから、生徒を瀕死に追い込んじまうと何かと不都合になるだろう。
もしや俺を葬った後の証拠隠滅の工作も用意しているのだろうか?そうだったら最後か、俺は未練たっぷりの状態でこの世から二度と戻らない旅に出ることになる。
冷や汗ばかりが俺の顔をしたたって覆い、クーラーの軽い涼風が濡れた顔を撫でる。
沈黙が走る。この間にも皇帝の視線は穴が空くほどどころか、その先にある壁をも貫きかねない勢いで俺の眉間に注がれている。
顔の上半分を闇色に染めて口を右だけ吊り上げる不気味な皇帝に、俺は恐る恐る質問した。
「これは危険な仕事ですか?」
「愚問だな」
余計に考えさせるような答えが返ってきた。どういう意味だろう?
『たかが画用紙の配達に何の危険がある?』
あるいは、
『俺の授業で惰眠をむさぼって安全が保証されると思うか?』
どちらの意味で言っているかは分からない。はたまた両方かもしれない。
そして、任されたのも両方のことだったのかもしれないな。
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