序章

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「苦い…」 俺はそう呟くと、一度口をつけただけの珈琲をテーブルの上に置いた。 何度飲んでも、珈琲は苦い。 俺は微かに湯気の立ち昇る珈琲を一瞥すると、窓際に向かい色褪せたカーテンを開ける。 今日は雲一つない晴天。 照りつける真夏の太陽を遮るものはなく、住宅街の屋根はただ無言で蒸気していた。 「いい天気だな…」 頭をボリボリ掻きながら振り返ると、目に入る自分の部屋。 実家から持ってきたベッド、全く見ないテレビ、気だるそうに回る扇風機…。 ここに越してきてもう二年になるが、必要なもの以外は殆どない。 …面白みのない俺に、ぴったりの部屋だと思う。
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