🌃聖なる刻†⏳

第一話.祖父の忘れ物

「ばぁ～ちゃん！これな～に？」

真夏の日射しが眩しい縁側。

蝉の合唱が風を呼び、風鈴を揺らせているかのようだ。

そこには、まだ幼い少年と年輩の女性がスイカを頬張っている。

「これはの、巻物と言っでの…代々、宮崎家さ伝わる経本じゃ」

少年が何処からか持ってきた書物を見て、女性が言った。

「きょ～ほん？」

「そうじゃ、御守りだ」

「ふ～ん」

少年はあまり興味が無いのか書物を元の場所に置き、再びスイカを頬張った。

時は経ち、季節は同じ夏。

一人の少年が、田んぼに囲まれた一本道を歩いている。

歳は十代半ばだろうか。

「あっちぃ～！なんでバス停からこんなに遠いんだよ！」

汗を額から垂らしながら、少年が嘆く。

６年ぶりだなぁ――

小さい頃は爺ちゃんが必ず、トラックで迎えに来ていてくれてたからな…。

実際歩いてみると、まさかこんなに遠いとは思わなかった。

と少年は田舎の不便さを、改めて痛感した。

（久しぶりだな、あのババアに会うのは）

彼は小さい頃の記憶を辿る。

（そういえば…熱出したとき、薬じゃなくて変な巻物被せてきたような…）

もう１０年以上も前の記憶は、ハッキリとは思い出せない。

彼は今、岩手の田舎の祖母の所に夏休みがてら、親に頼まれたお使いに来ていた。

彼の名前は宮崎琢磨。

高校に入って初めての夏休みに、田舎の畦道を歩いている。

琢磨が今抱えている悩みは、身長が低い事だ。

まだ１６２ｃｍしかなく、去年はほとんど伸びなかった。

だから彼は、中学は帰宅部で運動不足が原因と考えてバスケ部へ入ったのだ。

入部から４ヶ月、全く伸びた気配がない。

（親父はデカいのに、なんで俺は伸びねぇんだよ！）

琢磨が心の中で叫んだ。

『コンパクトでとても収納しやすく、とても便利！お宅にもお一ついかが？』

「は？」

突然聞こえた声に振り返り、周りをキョロキョロ見回すが辺りに人の気配はなかった。

（今なんか声が聞こえた様な……気のせいか）

「けっ！なんで俺が大切な夏休みにこんなとこ来なれりゃいけねぇんだよ！」

暑さと悩みで苛立ちながら、道の小石を蹴った。

「悪がっだなぁ～こげなとごで！」

突然琢磨に声をかけた老婆は、あの夏の年輩の女性にそっくりだった。

「わっ！ババア！」

どうやら、お化けのように現れたのは、琢磨の祖母らしい。