🌃聖なる刻†⏳

第一話.祖父の忘れ物

（美千代め……老けたな）

美千代と呼ばれた老婆は、白髪混じりで長髪を結んでいる。

彼女は今年で８５歳だと、琢磨は父から聞いている。

父方の祖母で口うるさく、いつも人を濃き使い、小遣いはくれないケチなババア…。

と琢磨いつも思っている。

「誰がケチだ？」

「は？え！？」

琢磨は心の中で言ったつもりだったが、美千代には聴こえていたのか、反応されたことに驚いた。

「おめ、何しさ来たぁ？」

「何って母さんから聞いてるだろ！頼まれて、御守り持ってきてやったんだよ！」

せっかく遠い所から来たのにと、琢磨は美千代の発言にムッとしながら、御守りが入った袋を取り出す。

「おう、ほだ、ほだ！！」

琢磨は、もう痴呆が始まっているのではないかと、疑いの目で美千代を見ると歩き出した。

二人が立っている畦道の先には小さな山があり、その山には木々に囲まれた古い日本家屋が顔を出している。

ここは岩手県の遠野市、北上高地の中南部に位置し、四方を山で囲まれたのどかな地域だ。

かつてカッパが多く住み、人々を脅かしたという。

常堅寺や河童伝説で有名なカッパ淵がある。

常堅寺には、全国唯一のカッパ狛犬があり、その裏手を流れる小川の淵をカッパ淵という。

その水辺にはカッパの神を祀った小さな祠がある。

カッパの神は乳の神であり、乳児の母親が母乳の出をよくなるよう祈願するとよいとされ、祠には女性が奉納した赤い布による乳房を模ったぬいぐるみの様なものが置かれている。

琢磨の父と母は幼なじみ、二人共この遠野市出身で、大学入学を機に上京した。

バリバリ東北弁だったらしいが、恥ずかしかったらしく大学卒業までには標準語になっていたらしい。

家族構成は、父と母、姉、彼、妹、弟と愛犬チャッピーの六人と一匹。

琢磨の家族は皆、常に美千代から貰った御守りを携帯している。

もちろん、チャッピーもだ。

ただの厄除け用らしいが、琢磨は普通の御守りと比べると何か違和感を感じている。

その御守りは、何故か年に二回交換する。

美千代が言うには、『汚れるから』らしい。

彼女は霊や風水、非科学的な事は信じない。

だか、厄除けは別らしいと琢磨に話した。

御守りを持つのは日本古来の習慣だ、と琢磨はあまり不思議だとは思っていない。