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その日の夜、私は城内の渡り廊下を歩いて貂蝉様の部屋へと向かっていた。勿論元譲の言う通り、心の奥を直接教えてもらう為。そして、自分の願いを伝える為に…ね。
壁が無い為、直接目に入る月は朧月。夏だというのに、何処と無く肌寒く感じるのは、きっと私が緊張しているせい。
笑ってしまうわよね。どんな戦に出陣しても緊張なんてしなかった私が、指先も唇も、こんなにも震わせているんだから。
引き返したいという想いが何度も心の中を巡ってる。でも、元譲の「心配する事は無い」という希望と、貂蝉様ともっと深く繋がりたいという想いが、震える足を前に進ませる。
心が押し潰れそう…。
この感情が私を蝕んでいく。
そうこう思っているうちに、私は貂蝉様の部屋の前に着いてしまっていた。董卓様が他の側近とは別に作らせた、離れにある特別な部屋。
目の前にある扉がとても大きく見えるし、障子越しに見える揺らめく明かりがとても怖く感じる。でも、勇気を振り絞ってここまで来たんだから、もう後戻りなんて出来ない。
一度息を大きく吸い、私は声を出した。
「貂蝉様、呂姫です。用があって伺いました。」
しばらくの静寂。その後、「どうぞ」という言葉が静かに耳に響いた。
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