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「失礼します。」
部屋に入って、後ろ手に戸を閉めると。出窓に座り、長襦袢姿で書に目を落とす貂蝉様が目に入った。
月明かりに照らされて読書に耽る貂蝉様は神秘的なまでに綺麗で、私は喉を唾液で潤さずにはいられなかった。
貂蝉様が視線を上げて、柔らかくて妖しい瞳を私に向けてきた。得意の心を見透かすような雰囲気が、私に言葉を託しているような錯覚を覚えさせる。実際それは正解で、
「…何?」
と、言葉を紡いでいた。
それは、審判の開始を知らせる奏で、私の心を酷く締め付けてた。言わなければならない事、伝えなければならない事、諸刃の剣を使う覚悟を決めなければならなくなった瞬間…。
中々言葉を発せない私を、黙って見続ける貂蝉様の視線が追い立てる。胸が苦しい、息が出来ない。少ない酸素を求めて、胸が上下しているのが良く分かる。唇が乾く。貂蝉様に隠す為、後ろ手に回した指が、動揺を表現してしまうのを止める事ができない。
こんなにも辛い感情が存在するなんて、本当に大きな驚きだった…。
「あの…。昼間の返事返そうと思って…。」
貂蝉様は言葉をくれない。いつもの様に悟って、代わりに言葉を紡いで欲しいのに。
「私も…。」
大丈夫…元譲も大丈夫と言っていたのだから、願いが叶う可能性は高い筈…。
私は最後に息を大きく吸って、口にするべき言葉を放った。
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