天下無双姫の世にも奇妙な恋の悩み

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「私も…この世の何よりも、貂蝉様の事。好きになったみたい…。」 口にする代償となったのは頬を伝う涙。泣いたのなんて何年ぶりだろう…。貂蝉様もそれに驚いたようで、少しだけ目を見開いて…そして、少しだけ視線を逸らした。  けれど、未だ言わなければならない言葉がある。 「だから、お父様や董卓様の事は忘れて私の事だけ考えて欲しいの。私の傍にずっと、居て欲しいの…。」 言うべき事を言い終わり、最後に零せたのは意外にも笑顔だった。きっとそれは、言い切ったことへの満足感が産んでくれた、私へのご褒美。  貂蝉様が目を閉じて、書を閉じる。足を出窓から降ろして、近づいてきた。私よりほんの少しだけ高い身体。そのほんの少しがとても今は怖く感じる。  私の頬に貂蝉様の温かい手が添えられる、それは審判の合図。 「…有難う。姫が私の事をそんな風に思ってくれたの、凄く嬉しいわ。おかげで私、貴女の事、もっと好きになれた…。」 嬉しい言葉に私の心の緊張が解れていく。手の温もりを、幸せと感じることが出来る。 けれど、次の言葉で私の心は奈落の底に落とされた。 「でも、ごめんなさい。姫の願いに答えてあげる事はできないわ…。」  …え? 今何て言ったの? 私は瞬時に目を見開き、貂蝉様の瞳を正面から覗いた。悲しみを感じる前に、真実を知りたかったから。けれど、いつも心の奥を見せてくれない貂蝉様の瞳が、今は真実を見せてくれていた。  嘘じゃ…ない。 あまりのショックに狂った私の思考は、口元に笑みを作らせていた。 「ははっ…何でよ。私と肌、重ねてくれたじゃない。私の事、この世の何よりも好きって言ってくれたじゃないっ!」 貂蝉様の手を振り払い、まくし立てる私。その瞳は完全に涙で溢れていた。  だって、「ごめんなさい」の理由が分からなかったから。 「それって、私にくれた言葉や行為が全部嘘だったて事…? 女の私とこれ以上先に進むつもりは無いって事…? それとも、私より王允様の命を取るって事なのっ?」 「そうよ。私は姫より王允様の命を選ぶの。」 不意に遮られる言葉。貂蝉様は悲しそうに微笑んで、こう答えた。  私は、それに目を見開く。だって貂蝉様は他の馬鹿な女とは違う。自分の欲望に忠実で、自分で自分の道を作れる人と、思い込んでいたから。だって、人中の呂布の娘に手を出すような人よ。そう思ったって仕方が無いじゃない。
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