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視線を戻すと、首に回された手と胸下に回された手で、ギュッと強く抱きしめられた。首筋に埋めてくる顔が、絡み合う髪がくすぐったくて心地良い。一気に増す貂蝉様の香りと温もりに、私は淫らな感情に耐えるのに必死で、
「けれど、これだけは覚えていてね。」
でも、そんな感情は貂蝉様の発した言葉で一気に四散してしまった。
「私は、この世の何よりも貴女の事が好きだから…。」
この世の何よりも好き? 心がギュッと締め付けられる感触。それは温かいのに、苦しいという感情に近い何か。
呼吸をするのが辛い。息が出来ない。
なんとか息を整えると、今度は質問を投げかけられた。
「姫様は私の事を、お好きですか?」
…。
そこには「私も貂蝉様が、この世で一番大切…」等と言ってしまいそうな自分が居た。残念ながら、私にはそれを喉から上に出す力は無かった。簡単に出せるのなら、この呂姫がこんなに悩んだりはしない。
でもそんな感情も、貂蝉様は読み取っているような感じがした。だって、相変わらずお得意の不適な笑みなんだもの。
フっと離れていく貂蝉様の身体。それだけの事で瞬時に心細さが襲ってくるが、貂蝉様の相変わらずの笑顔が私の心を暖める。
貂蝉様が私の手を取り、引っ張ってくる。
「行きましょ。姫。」
急な提案に当然、顔をしかめる私。
「行くって、何処によ?」
「お腹が空いたわ、付き合って欲しいの。」
私はもう、正常な思考が出来ないのかもしれない。だって、貂蝉様のお腹を満たすのは、私の様な気がしてならなかったから。
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