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良い目だった。
体の至るところに巻かれた白い布が目に付く傷だらけの状態。
満身創痍と言えるその状態で、まるで手負いの獣のように鋭い殺気を放つその黒い瞳はこのままくせ者として処断してしまうにはあまりに惜しかった。
だから助けた。
無用心、無茶苦茶だ。
そんな周りの意見は圧殺し、そうして松平は一匹の獣を拾った。
そして、暫くしてそれは荒ぶる獣ではなく、研ぎ澄まされた刃だと知った。
使い手の意のままに動き、決して己の意志で裏切る事のない道具のようなそのあり方は、ここまで歩んできた生を窺わせた。
恐らく、そうして生きてきたのだろう。
今の松平にはこうした裏切らない人間がなにより必要だった。
権謀渦巻き、裏切りが横行する次の世と今が争うこの動乱の中、信用の置ける人間というのは金よりも価値がある。
だが、道具としてこれから松平が使役していくことになる人間、湊にはそんな生き方以外も知ってほしいと思ってもいた。
美しい容姿をしているため、そのように磨けば女としての幸せだって手に入れることも容易に出来る筈だ。
そう、湊は女なのだから。
松平自身、何故こんな感情を湊に感じたのかわからない。
ただ、松平の表情は父親のように穏やかなものだった。
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