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島津つぐみはベッドに寝そべり、小さくため息を吐いた。
生まれてから23年間、彼女はずっと苦しめられてきた。原因は父・英樹の束縛で、小さい頃から服装や態度はもちろん、興味をもった事でさえも父の決めた事以外はさせてもらえなかった。
溺愛なのか、それとも完璧に育ちの良い娘を作ろうとしたのかはわからない。時に父に連れられて大物が集まるパーティーに出席すると、実際周囲の評判はかなり良い。つぐみは父の理想通りの娘になっていた。
島津家の家業、桜波電工は日本で一、二を争う電気メーカーで、海外でも製品を高く評価される大企業だ。つぐみの曾祖父の時代から続いていて、つぐみは生活には不自由した事が無い大金持ちだった。明治から続く老舗の西洋風ホテルの様な豪邸(屋敷とも言える)に住み、父が同意した物なら惜しまず買うことも出来た。
しかし、今の生活はつぐみの様々な可能性を退化させた。不満があっても周囲の大人の言う通りにしか動かずに、自分一人で何かをした事が無かった。何度か反発するものの、すぐに打ち負かされて諦める…その繰り返しだった。
そういう意味では、今度の計画はつぐみにとって初めて自分の意思で行動ができる冒険となった。
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