287人が本棚に入れています
本棚に追加
「それは光栄ですわ。」
確かに高居はルックスも良く、頭も良い、そして政治家の息子と三拍子揃っている。歳はつぐみに六歳上で、優しく接してくれており、多少の甘え事も聞いてくれる。関係は悪くない。恐らく野心的で玉の輿に燃える女性なら喉から手が出るほど欲しい人間だろう。しかしつぐみにはただ虚しいだけだった。
「父さん、じゃあ行くよ。」
弟の翼が鞄を背負い立ち上がった。
「ああ、帰りは遅いのか?」
「いや、いつもと同じだよ。夕方には帰ってくる。」
「わかった。行ってらっしゃい。」
英樹に続いて高居やつぐみも声をかけた。
つぐみは何でも活動的かつ積極的に物事をやらせてもらえる翼がうらやましかった。英樹は言う「男は若い時にいろんな経験を積む事で成長して、いずれ大きくなっていくんだ」と、そんな事なら男に生まれたかったとどうにもならない事を激しく悔やんだ時もあった。
それより、この家に生まれなかったら私は…それを考えたら無性に悲しくなった。
最初のコメントを投稿しよう!