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つぐみの声は絶望でいっぱいだった。
「お嬢様…」
渡部はつぐみに何か声をかけたいと思っているのだが、何と言ったらいいか言葉を詰まらせた。
「昔からそう、友達だって恋愛だって自由は無かった。私は篭の鳥なのよ…」
つぐみはそう言い残して部屋を去った。目からは悔しさの涙が溢れていた。
自室に戻ったつぐみはある出来事を思い出した。
あれはつぐみが高校生だった頃、一人の男の子に恋をした。名を洋一と言った。何故か名字は思い出せない。しかし、彼と過ごした貴重な時間はしっかりと覚えている。
同じクラスになり、つぐみが密かに憧れていると洋一から話しかけてくれ、すぐに仲良くなった。学校では常に一緒にいて、ある時は友人と遊ぶと誤魔化してデートに出掛けたりもした。すごく楽しかった。そして洋一は英樹に会いたいと言い始めた。
「俺、ちゃんとつぐみのお父さんに会って、つぐみとの事を言っておきたいんだ。」
その一言につぐみは動揺した。
「そんなの許してもらえるはずないわ。そんな事で会えなくなったりしたら…あたし嫌よ。」
「大丈夫だよ。ちゃんと誠意を持って話し合えば分かってくれる。」
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