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つぐみは細い声で言った。
「そういう事じゃありませんが、娘の歳に近い方にそういう感情はどうも持てなくて…すみません。」
「やっぱりそうよね…今のは忘れてください。でもネクタイは受け取って。また来るときに締めて来て下さい。」
つぐみは気丈に振る舞う。少し足が震えたが。
「ありがとうございます。この柄…つぐみさんはセンスが良いですね。」
「そう言ってくれて嬉しい。それに、気持ちを伝えられただけでも良かったし。」
「すみませんねぇ、それじゃあ現場に行ってきます。」
「はい、頑張ってください。」
それに志津里は軽く会釈して部屋を出た。
ああ、フラれちゃった…つぐみはベッドに座ると小さく笑った。
不思議と気分は落ち込まなかった。渡す物は渡せたし、気持ちも伝えられたのだ。
ただ、二つの意味で事件の解決に近づくのが怖かった。
志津里に会えなくなるかもしれない事と、自分が逮捕されるかもしれないと思う事だった。志津里が捜査を進めれば進めるほど、核心に迫れば迫るほど、その思いは強まった。
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