第4話 人と、闇と

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「もともとは地蔵は地蔵菩薩と言って、六道を輪廻する衆生を救う仏っていうのは知ってるよな?」 「知らん」  明比呂にも弥生にも、翔の説明は理解不能なものだった。そんな二人を無視し、翔は話を続けた。 「また、三途の川の塞の河原で子供たちを鬼から守る地蔵も常識だが」 「どこの常識よ?」 「ここまでは仏教の話だけど、日本に伝来した地蔵は道祖神信仰と習合されて、町外れや辻に『町の結界の守護神』として配置されるようになったのさ」 「じゃあ、ここは日本なの?」 「いいや」  弥生の質問に翔は首を横に振った。 「ギリシア神話のヘルメスも道祖神的な性格も持っているんだ」  ヘルメス神とはオリンポス十二神の一柱で、商業や旅人の守り神とされ信仰されていた。  古代アルカディア地方では『ヘルマ(Herma)』という石の柱を街道に立て、道中の安全や多穣多産を祈願していた。ヘルメス神の信仰は、それに由来するとされている。 「道祖神信仰は、日本もヨーロッパも共通だ。逆に言えば…」  そこで翔は言葉を区切った。 「逆に言えば?」  明比呂が先を促す。 「道祖神信仰のオリジナルがミドル・ワールドで、地球界の道祖神信仰はミドル・ワールドの模倣に過ぎない、と考えられなくもない」 「なるほど…」  明比呂と弥生が口を揃えたが、何がなるほどなのか、良く分かっていなかった。
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