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三人が急いでいるのにはわけがある。そろそろ予鈴が鳴るのだ。
「ああ、もう!マサがさっさと私を起こさないからこんなことになるのよ!」
遥の記憶からは、正司が二度起こしてくれたことが綺麗に消去されているらしかった。が、それはいつものことなので、いまさら正司はなにも言わない。言う必要もない。
「ショウ、今日は私、体育の授業がありますのよ。ちゃんと着替えは持ってきたのですか?」
正司を「ショウ」と呼んだ少女は遥の妹で、二年生の翠。亜麻色の遥の髪とは対照的な黒髪は腰のあたりまでストレートに伸ばされている。澄ました顔は見ようによってはやや冷たさも感じさせるが、姉同様、間違いなく美少女と言える整った容姿をしていた。
遥がどちらかと言うと西洋風の顔立ちなのに対して、翠は純日本風。スタイルも同様に、遥がグラマー、翠がスレンダーと異なっている。
なのに、二人がまとっている雰囲気はとても似通っている。少なくとも正司にはそのように感じられる。育ちのよさが醸し出す、お嬢様にしか出せないオーラだと正司は解釈している。
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