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真夏のパーティーは楽しい夏休みで唯一、姉妹にとって暗鬱なイベントだった。
子供心にも、周囲の大人たちが放つ「成金」だの「成り上がり」だのという陰口が自分たちの両親に向けられた悪意であることは感じられたし、なにより退屈だった。
会場には姉妹と同じくらいの年頃の子供たちもいるにはいたが、明らかにこちらを無視していた。恐らくは親からなにか言われているのだろう。そういった点も、姉妹には面白くなかった。
「行こう、翠」
ふわりとした髪をリボンで結った少女が、日本人形のような黒髪をした少女の手を引く。
「で、でも遥お姉ちゃんっ」
翠と呼ばれた少女は、姉に引きずられるようにしてパーティー会場から連れ出された。
パーティー会場となっていたホテルの一室を抜け出し、中庭に出る。空調の効きすぎた室内と違って、夜風が肌に当たる感触は心地よかった。
「しばらくここにいよう、翠」
姉妹は酒と香水の匂いが混じった会場の喧噪を遠くに聞きながら、二人並んで中庭を歩くことにした。
「あら?可愛いお嬢さんたちね。こんばんは」
そんなとき、中庭のベンチに座っていた初老の婦人が声をかけてきた。柔和な笑顔と声に、思わず、
「こ、こんばんはっ」
「こんばんは、です!」
姉妹が反射的に挨拶をかえす。
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