――前章――

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 誰だって住み慣れた所は離れたくない。  勝手を知っているし、気軽に話しかけてくる奴だっているし、何より何かしらの思い出が必ずある。  それは恥ずかしい思い出だったり、嬉しい思い出だったりと、千差万別、人それぞれだ。  勿論、彼にもそんな思い出はある。  恥ずかしい事もあった。嬉しいこともあった。小さい頃は涙を流しながら悔しいと思った記憶も、挫けてしまいそうな状況に置かれた記憶もある。  けど、やっぱり嬉しい事や楽しかった思い出の方が強い。もしかしたら、彼は幸せだったのかもしれない。  思い残りがないと言えば嘘になる。だけど、行かなくちゃならないのもまた、事実な訳で。  準備は整った。  計画した時刻は今日。  正確には今夜。  今夜、彼は、この王都を去る。  結果として、誰が悲しむのかを知っていても、尚。 .
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