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結局、ラヴィの意識がまともに物事を捉えるようになるまで大分時間が掛った。
朝食はあの子に「大丈夫ですか?」と心配されつつも生返事だけ返し、ぼーとしたまま食べ物を口に運んでいた。正直、あの子の料理はいつも美味しいけれど、その時だけは味がまったくしなかった。
当のクロアといえば、“あの行為”をしたと言うのにまるで何もなかったかのように振る舞い、平素を崩していなかった。こっちは見られていると思うだけでも恥ずかしかったと言うのに。
「遅刻だ」と言いつつもまったく焦る様子を見せないでクロアは仕事に行った。
あの子は忙しなく何かの準備をしているようだったが、はて何か特別なイベント事でもあっただろうか。そういえば最近は何かとあの子がそわそわとしているようなのだけど。
かくいうラヴィも何時までも呆けているわけにもいかず、素早く己の腰まで伸びる金髪を一つに纏め、剣帯に愛剣を吊るし、息を大きく吸って吐く。
ラヴィは一人の女性であると同時に騎士でもある。
人々の安全な暮らしを守る騎士であるのに、隙のある姿を見せたら民は不安に感じてしまうかもしれないのだ。
だらしない姿は晒せない。
身を引き締め、ラヴィはあの子に見送られ、彼女は彼女の本日の騎士の務めを果たしにいった。
「ふぅ……」
今日は例の事件が起こることがなく、一日が終われそうだ。見回りの際にセレクターと一般人の些細な小競り合いはあったが、いつもの事なので特筆すべき事は何もない。
ラヴィがいるのは王都フォレン騎士団第三部隊公務役所の言わば休憩室。
簡素な作りの木製の椅子と長テーブル、それが十列ほど並んでいる。
それでも割と広々としているし、この季節は部屋の中にいるよりも、外の方が夜景も綺麗で程よい風も吹くからと、外で休憩をとる騎士は多い。
故に、休憩室には人が少ない。ちらほらと見えるだけでざっと数人ほど。
これでやっと仕事に支障がでると思い無理矢理考えないようにしていた事を、ゆっくりと考えられる。
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