――前章――

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 「……ふふっ」  とてもじゃないがこんな緩んだ顔を同僚の騎士達に見られるわけにはいかず、隠すように机に突っ伏す。  戸惑いはもう消えた。なら、残っているのは幸福感だけだ。  伏せながら、自分の唇をそっとなぞる。ここにはまだクロアの感触が残っている気がして、なぞる度に幸せになれる。  頭の中は落ち着いた。でも、胸の鼓動は一向に収まる気配を見せない。  帰ったら何を話そうか。もしかしたら、まだ気恥しくなった顔を見れないかも知れない。  でも、それもいい。この出来事は確実に二人の間を隔てていた壁を崩したはずだから。 「ふふっ」  にやけが止められない。これからの自分達の関係がどう変化していくのか……期待せずにいられない。  幸せとはこういうことを言うのかもしれないと、その時は本気で思っていた。 「……おい。おい! ラヴィ!!」 「ひゃ……! は、はい!!」  突如、怒声にも似た図太い声音と肩に置かれた巨大な手によって叩き起こされる。  条件反射的にピンと背筋を伸ばして、振り向けば、そこにはあきれ顔の強面が。 「ったく、何を呆けてやがる。ワシが何度呼んでも返事せんで……!」 「……すみませんでした。隊長。ちょっと考え事をしてて……」  すぐさま謝る。というか、上司に呼ばれて返事をしなかったラヴィが一方的に悪いと言えば悪いのだが。  ずがっと乱暴にラヴィの隣の椅子を引き、重い筋肉隆々とした体躯がそこに乗る。 「あの、どうかしましたか? 私に何か御用でも?」  機嫌を損ねてしまったことと厳つい顔も相まって、恐る恐る尋ねる。
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